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臭い物には蓋をしろ。 (30.09.2012)

福島原発事故の直後、手に負えない惨状を目の当たりにした菅首相は、「脱原発」を提言した。この首相の提言に対して、最初の非難は野党ではなく、政府与党内、それもよりよって首相の右腕の枝野官房長官から来た。「首相の私的な見解であって、政府の見解ではない。」というのだ。官房長官が首相の見解を疑問視するなど、日本でのみ観察する事ができる現象だ。この一件は、日本の危機に直面して、党内で団結して危機の対処する能力も意思もなく、これまで通り党内抗争を続けるこの党の情けない内情を明らかにした。皆まで言えば、官房長官は、日本の将来を左右する破局が進行中であったにもかかわらず、利権を優先、まだ原発を推進する気でいたのだから全く恐れ入る。

ドイツの政治家だってそこまでひどくはない。ドイツの政治家は日本での原発事故に直面すると、自ら決定した原発稼動延長計画を、直ちに棚上げした。日本同様に利権にまみれていたが、利権よりも国の安全が優先するという、当然のコンセンサスから出た決定だった。そのコンセンサスさえ日本の政治家には欠けた。あの破局から1年半経って、その同じ日本政府がようやく脱原発に向けて動き出したが、これは何も原発の危険性を理解するのに1年半かかったのではない。原発を推進すると選挙で勝てない事がやっとわかってきた為だ。枝野官房長官などは、脱原発の著作まで出す始末だ。なんという政治信念のない政治家達だろう。原発反対運動を展開している市民の抵抗がなければ、政府は電力業界からの圧力に負けて、原発推進を決定していたに違いない。

しかし(仮に)原発の廃止が決まったからと言って、それで問題がなくなるわけではない。まだまだ問題は山積している。その一例を紹介してみよう。ドイツで60年代に原発の建設が計画されると、放射性廃棄物の最終保管場所を探す必要が生じた。人口の多いミュンヘンやケルンのど真ん中に放射性廃棄物を保管するわけにはいかないので、何処か、人口密度の低い場所がいい。又、たかがごみを保管する為に、堅固な貯蔵庫を建設するのでは費用がかさんで仕方ない。そこでドイツに「吐いて捨てるほどある」岩塩鉱(廃坑)が候補にあがった。こうした点を考慮した結果、ニーダーザクセン州のGorlebenにある岩塩鉱が放射性廃棄物、それも高度の放射性廃棄物の最終保管所の有料候補として挙げられた。

果たして岩塩鉱が放射性廃棄物の保管場所として適しているかどうか、その実験が軽度の放射性廃棄物を使用して、行われることになった。この目的で選ばれたのが、同じくニーダーザクセン州にあるAsseと呼ばれるかっての岩塩鉱だった。政府は1965年、廃坑になって何も価値もない岩塩鉱を、放射性廃棄物の貯蔵目的で70万ドイツマルクの大金を払って購入した。この計画が公になると市民が抗議、「岩塩鉱にドラム缶なんぞを保管したら、壁からの浸水によりドラム缶はボロボロに錆びて、放射能汚染が広がってしまう。」と裁判所にこの計画のストップを訴えた。ところがドイツの科学省の次官は、「浸水を妨げる事ができる。」と証言、裁判所はこの証言を信用して住民の訴えを退けた。

1967年から放射性廃棄物の「貯蔵」が始まった。その方法はかなりいい加減なもの。テレビではクレーンがドラム缶を几帳面に積み上げている光景が放映されたが、実際には「穴」にドラム缶を放り込む方法だった。地元住民の反対を押し切って、この廃棄物の保管を始めた科学省は、1992年、「能力の限界に達した。」としてこの保管実験を終了した。周辺住民が懸念していた通り、岩塩鉱に侵入する水の量が増加したのが原因だ。科学省はこの水が貯蔵場所に達しないように、排水溝を築き、ポンプで水をこの排水溝に流したが、これ以上浸水するともう手に負えなくなる。この決定に困ったのがドイツの電力業界だ。毎日、発生する廃棄物を何処にもって行けばいいのか。業界からの圧力を受けた政府は保管場所の決定権を科学省から奪い、これを環境省の管轄とした。

当時、コール政権下で環境大臣だったのは、よりによって現メルケル首相である。女史はAsseにはまだ十分な貯蔵場所がある事を証明すべく、調査採掘を行う事にした。ところが採掘権を持っている地元住民が、採掘権を政府に売却する事を拒否した。政府は計画変更を余儀なくされて、60年代に買収した岩塩鉱内でのみで採掘調査を行う、ミニ調査を実施した。

メルケル環境大臣は、「そのようなミニ採掘調査は、選考条件を満たさない。」と言う法的なアドバイス、「アセは限界に達しており、これ以上の採掘を続けるのは危険である。」という実情を一番よく知っている科学省の警告にもかかわらず、「アセにおける保管場所の増築は、可能である。」という結果を出した。環境省が金を出し、息のかかった業者に出した調査で、他の結果が出て入ればそれは驚きだったろう。こうしてアセの増築が決定され、高度の放射能廃棄物の永久保管所には、アセ同様に岩塩鉱で「保管に適している」Gorlebenに決定された。この決定後、アセでは壁が削り取られて、貯蔵庫を確保、放射能に汚染されたドラム缶が日々、運び込まれることになった。その結果、薄くなった壁からさらに浸水、流れ込む水は1日12トンに達し、科学省の予想通り、処理能力を超えた。貯蔵庫は完全に浸水して、放射性廃棄物を含んだドラム缶は当初「塩水」の中に浮かんでいたが、次第に錆びて穴が開き、放射能廃棄物が流れ出し始めた。

2008年、地元の新聞が、「アセの塩水にはセシウムが含まれている。」と報道、ニーダーザクセン州は言うに及ばず、ドイツ全土で大きく取り上げられた。報道機関は責任者である州の環境省に事実関係を問い合わせしたが、返事は「把握していない。」という情けのないものだった。州議会はここでようやく「塩水の調査」を依頼、その結果はチェルノブイリ以来の大ショックだった。政府が発表した報告書には、「採掘調査を行った幾つかの地域で、危険値を超えるセシウム137が測定された。」と書かれており、政府の怠慢、誤判断による放射能汚染が発覚した。飲み水が放射能に汚染される危険が指摘され、その対策案が協議されたが、あまりぱっとしなかった。仮にドラム缶を回収する事ができたとして、地下数百メートルにある放射能に犯された大量の水をどうやってくみ上げるのか。1日12トンもの水が流れ込んでいる今、汚水をすべてくみ上げるのは技術上不可能だ。しかしこのまま放っておくと、ドラム缶は次々に穴が開いて、ますます放射能汚染が深刻化してしまう。解決方法が見つからないまま時は無駄に流れ、2012年、再度放射能汚染度が測定されたが、セシウムは許容範囲の24倍に達しており、まずます放射能汚染が深刻化している事が判明した。

ジレンマに悩まされた挙句、実際家のドイツ人は塩化マグネシウムを流し込む方法を検討している。塩化マグネシウムにより塩がこれ以上溶け出すのを防ぐと同時に、放射能廃棄物が浮かんでいる岩塩鉱を塩化マグネシウムで満たして圧力を上げる事により、浸水を防げるという。さらには大量に流し込んだ塩化マグネシウムで、「全体の放射能汚染度を下げる事ができる。」という、「臭い物には蓋をしろ。」的なアイデアである。果たしてこの方法で、汚染の悪化が防げるのだろうか。日本では、「ドイツは原発の廃止を決定したので、安心。」と思われている方が多いが、現実はそう甘くない。安全な筈のドイツに住んでいても、飲み水が放射能に汚染される可能性がある。
          
その後、「どうしてこんな事になったのか。」と国会にて調査委員会が発足した。当時、科学省が提出した書類には、「アセは限界に達している。」と書かれているのに、何故、アセの拡張工事を行ったのか。この判断を下した当時の環境大臣に非難が集中した。9月27日、メルケル首相は調査委員会に出頭して当時の決定の動機を問われたが、「私に提出された科学者の推薦にそって判断を下した(ので責任はない)。」という、都合の良いものだった。

日本ではまだ原発事故が巻き起こした汚染を押さえる事に懸命になっているため、まだ放射能廃棄物の問題を認識するには至っていない。10年、20年後、今、簡単に地中に埋めている放射性廃棄物の処理の問題が指摘される事になるだろう。
         

岩塩鉱に放り投げたドラム缶は、
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錆びて、ボロボロに。
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コメント

2013/01/22 16:47  編集 URL

日本じゃ脱原発を掲げた政党は衆院選で負けてしまいましたね。有権者にはどうでもよかったのでしょう
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