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中国企業によるドイツ企業ショッピングツアー

中国企業によるドイツ企業ショッピングツアー

中国企業の成長戦略



開発途上国から、先進国への変化の真っ只中にある中国。

経済が発展するに比例して、これまでの二桁の経済成長率を達するのは不可能になってきた。今後は安い生産拠点から先端技術を持った産業拠点への転換が欠かせない。

日本のシャープの例が示す通り、特定の分野だけ、あるいは国内需要に特化した家電メーカーでは、グローバル化した世界で生き延びることが困難だ。

しかしそう簡単に世界で通用する新製品やパテントが開発できるものではない。

そこで中国企業は将来を左右する先端技術、パテントを持つ外国企業を買収して、そのパテントを使って製造、世界市場を席巻する方向に転換した。

その標的になったは、日本企業ではなく、世界先端技術を持つドイツの中小企業だ。

買収競争



世界中で中国経済の成り行きに心配して株価が暴落していた2016年2月、中国最大の化学系国営企業、"Chemchina"は、スイスの農薬品会社、"Syngenta"を430億ドルで買うオファーを出して、化学分野における生き残り競争に火をつけた。

買収されたくなければ、買収される前に他の企業を買収して会社の規模を大きくするしかない。

ドイツの薬品会社の"Bayer"は買収される前に、米国の農作物の種子、農薬品に特化した"Monsanto"を660億ドルで買うオファーを出した。

参照 : Handelsblatt

仮にこの買収が成功裏に終わると、日本の小さな化学薬品企業は歯が立たない。将来は中国、あるいはドイツ企業にパテント料を払って、日本で農薬、農薬品等を販売することになる。

中国企業によるドイツ企業ショッピングツアー



偶然だろうが中国語でドイツを「徳国」と書く。

日本でも、

「ドイツ製」

と書けば高くても商品が売れるが、中国でも同じ。企業買収となるとドイツ企業がそのターゲットになる。

2016年1月、上述の"ChemChina"はドイツの特殊工作機械会社、"Krauss-Maffei"を9億2500万ユーロで買収すると発表した。

参照 : Frankfurter Allgemeine

2月になると中国企業がドイツのごみ処理会社、EEWを143億ユーロで買い、2016年5月には特殊工先機械会社MANZの20%株を"Shanghai Electric Group"が取得した。

6月になると中国の家電製品メーカー"Midea"がドイツの誇る世界最先端のロボットを製造している"Kuka"を買収すると発表した。

参照 : Augsburger Allgemeine

ところがこれはドイツ政府にとって間が悪かった。

ここで紹介した通り、ドイツ政府は次の産業革命はインターネットがもたらすと確信、これまで数百万ユーロの税金を"Grundforschung"(基礎研究)に投入してきた。

工科大学がこのテーマを研究して使えるようになってから、ドイツ企業にそのノウハウを伝授する国家事業だ。そしてKukaは、ドイツ産業の旗艦のような存在だった。

それを基礎研究もしないで中国人があっさりと買収、先端技術が中国人の手に入ることに大きな懸念が持ち上がった。

通産大臣はドイツの産業界が団結して中国人のオファーに抵抗するべきだと愛国心を見せたが、その呼びかけに反応する会社は皆無だった。

大臣の訴えにもかかわらず、"Kuka"の大株主は所有していた25.1%の株をあっさりと中国人に売却、

その後も投資家は次々に株を売却、Midiaは以前から所有していた10%と合せて90%を超える株を保有して、ドイツ産業の宝を買収してしまった。

さらに7月になると、中国企業がKukaと同じくアウグスブルクにある電灯製造会社Osramの電灯事業を買収すると発表した。

参照 : Welt

中国企業 赤字空港を買収



"Kuka"の中国企業への買収がテーマになっている6月、今度は中国の投資家がドイツの空港、"Hahn"を買収すると発表された。

参照 : NTV

この空港はここで紹介した通り、Rheinland-Pfalz 州政府が保有する典型的な地方空港だ。すなわち万年赤字で、州政府の予算を毎年食い潰している。

州政府は空港を手放したくて仕方がないが、「万年赤字空港を買いたい。」という奇特な投資家は現れず、頭痛の種となっていた。

ところがその奇特な投資家が登場した。それも中国から。

次々に買収されていくドイツ企業を見ていた州政府は、"Shanghai Yiqian Trading Company"という誰も知らない自称、輸出輸入会社からのオファーを信じてこれを疑わなかった。

中国人が売買契約書の署名のために上海からやってくると、州政府の担当大臣が自ら買ってもらった空港を案内、一堂で記念写真、そして記者会見まで行った。


このめでたい席で、

「中国では誰もこの会社を知らない。おかしくないですか。」

という声もあがったが、州政府は聞いて、聞こえないフリをした。万年赤字空港を買ってくれるなんて奇特な投資家は毎年、出てくるものではない。外野の声に耳をかさず、満面に笑みをうかべて契約書にサインした。

ところがサインの時点になると肝心の中国人の姿は見えず、ドイツ人の宝石商品が代理でサインした。

億の金が動く契約で、投資家本人がサインに現れないことに、

「おかしくないですか。」

と指摘する外野の声もあったが、州政府は聞いて、聞こえないフリをした。万年赤字空港を買ってくれるなんて奇特な投資家は毎年、出てくるものではない。

こうして契約書は無事サインされて、めでたし、めでたしとなる筈だった。

消えた中国人投資家



ところが(あるいは幸い)ドイツのメデイアは政府の発表を信用せず、中国にある支店を活用して契約書に書かれている"Shanghai Yiqian Trading Company"を上海に訪問した。

そこにはお目当ての会社はなく、そこには"Continental"のタイヤを販売する、タイヤ販売店があるだけだった。

カメラを抱えた外国人の取材班が店頭でチームが"Shanghai Yiqian Trading Company"について尋ねると、

「あなたも騙されたんですか。」

と店員が相好を崩して聞いてくる。この会社に投資した投資家が、お金の行方を知りたくて、度々このタイヤ店を訪れているそうだ。

この一部始終がテレビで放映されると、Rheinland-Pfalz 州政府は、ドイツ中で嘲笑いの対象になった。

「契約する前に相手の素性をチェックしなかったんですか。」

に始まって、

「宝石商が代理人として契約書に署名して、その時点でおかしいとは思わなかったんですが。」

など、ありとあらゆる質問が州政府に向けられた。

空港の売却の責任者の内務相は、

「会計会社の監査を受けて、そこから大丈夫と保障された。」

と自己弁護、責任を会計会社に転嫁しようとした。ところが会計会社はこの濡れ衣を黙ってかぶる気はなかった。

会社の名声がかかっている会計会社は、この中国の会社の詳細、過去が掴めず、州政府にこの中国人と契約することを警告したと声明を出した。

州政府は金を払って赤字空港を買ってくれるという話に夢中になり、会計会社からの警告を無視して盲目印を押してしまったのだ。

空港売却契約反故



さらに数日が経過して、Rheinland-Pfalz 州政府は中国人が契約時に提出を求めていた書類を提出していないので、契約を反故にしたと発表した。

それにしてもこの家族同伴でドイツにやってきた中国人の自称投資家は、何者だったのだろう。

ドイツのメデイアが行方を追ってるので、いずれは明らかになるかもしれないが、投資家の住所をチェックもしないで、契約書にサインした政治家のナイーブさは筆舌に尽きる。

逆に言えば、詐欺にかけては中国人の右に出るアジア人はいない。一体何処にドイツの州政府を騙した日本人や韓国人がいるだろう。

スケールの違い



空港の売却でボロが出たものの、中国人の商売のセンスは日本人のそれを上回る。

帳簿を操作して、嘘の数字を公開するのは日本企業も中国企業も同じだが、島国の日本人はコソコソと国内で悪さを働くのに比して、大陸人の中国は世界をまたに駆けて「活躍」する。

"Kuka"を買収したのは工作機械会社でもなければ、中国のロボット会社でもない。単なる家電メーカーだ。


中国人は将来、どの技術が必要になるか見極める嗅覚があり、

「業種が違う。」

と選り好みせず、10年、20年先を見て投資する。

日本でも富士フィルムが化粧品から薬品事業に打って出て成功したように、業種に拘らない。

日本企業の生き残り戦略



かって日本企業が買収したドイツ企業と言えば、工作機械の"Gildemeister"くらいしか思いつかない。

勿論、楽天を初めとして日本で成功を収めた会社がドイツの小さな会社を買収して、ドイツ進出の足場とすることはあるが、買収対象が小さすぎて、中国人のようなグローバルな視点ではない。

今でこそ"Made in China"と言えば、安くて粗悪品の象徴だ。

しかし世界最先端のドイツの技術を手に入れた中国人と競争することになれば、旧態依然の日本企業にどれだけ勝ち目があるだろうか。

日本を代表する家電メーカーのソニーが携帯電話市場で苦戦する中、"Huawei"、"Oppo"、"Xiaomi"などの中国製のメーカーは、販売台数でソニーをすでに追い越している。

「中国製よりもソニーの携帯の方が優れている。」

と負け惜しみを言っても、売れないのではどうしようもない。第二、第三のシャープが出てくる前に、日本は将来を左右する先端技術を開発するか、あるいはその技術を持った会社を買収する必要がある。

それもまだ余力があるうちに。
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