
(まだ)所有する航空機を売りに出したエア ベルリン 終焉近し?
格安航空会社戦国時代 生き残り組
ドイツでは90年代末から21世紀にかけて、格安航空会社の戦国時代があった。
生き残りを賭けた戦国時代が終わってみると、ドイツの格安航空会社と言えば エア ベルリンとルフトハンザの格安会社"Eurowings"しか残っていない。
ドイツに在住の方は、「ルフトハンザの格安航空会社は"Germanwings"じゃなかったの?」と思われるだろう。
2015年の悲劇的な墜落事故で会社のイメージが悪くなった。さらにコストをさらに削減する目的で、ルフトハンザはこれまで義理の母のような扱いをしていた同社の孫会社"Eurowings"をルフトハンザの正式な格安航空会社に格上げすることにした。
これに伴い地味だった"Eurowings"機体を塗り替えて、会社のロゴも一新した。

皆まで言えば、"Eurowings"の新しいスチュワーデスも募集している。親会社と違いお給料はさまざまな手当てがついて、初任給は1600ユーロから。
それでも
「スチュワーデスになりたい!」
という方は、直接、応募してください。ただし身長は160cm以上、英語とドイツ語に堪能であることが(最低)条件だ。
参照 : Eurowings
Eurowings 勝算は?
ルフトハンザが格安航空会社に力を入れているのは、海外からの競争が厳しいためだ。
アイルランドの"Ryanair"、イギリスの"Easyjet"は主に地方空港を使用しており、空港使用料がとりわけ安い。
客室乗務員は言うに及ばず、パイロットの給料も安いので、空港使用料の高いフランクフルトやミュンヘン空港を使用しているルフトハンザは、値段では勝ち目がない。
さらには産油国である"Etihad"や"Emirates"は、格安料金で給油できる上、実質、国営企業なので国からの援助(税金軽減&免除、資金援助等)を受けて、格安航空会社並みの安い料金を提供することができる。
例えばミュンヘンからタイのバンコクまで、ルフトハンザのチケットは安くても700ユーロ以上するが、"Ethiad"や"Emirates"は500ユーロ前後。
こうした海外からの競争に生き延びるため、ルフトハンザは独自の格安航空会社を導入することを強いられた。
しかしルフトハンザの高いパイロットや客室乗務員をそのまま使っては、人件費が高くて競争に勝てない。そこで新しく人材を募集してコストを下げ、この競争に立ち向かおうとしている。
欧州最大の航空会社でこの様なので、規模が小さいエアベルリンの台所事情はさらに厳しい。
慢性赤字のエア ベルリン
2015年、エアベルリンは4億4700万ユーロの赤字を出した。
参照 : Spiegel
毎年、
「来年は黒字になる。」
と約束しておきながら、過去8年で黒字だったのは1回だけ。原油(航空機燃料)が「嘘!」のように安い2016年の1~3月の四半期でも、1億7200万ユーロもの赤字を出した。
ライアンエアのO'Leary氏は、
「こんなに原油が安いのに、どうやったら赤字を出せるんだ。」
とこの結果を嘲笑った。
ライアンエアーは同じ時期、かってない巨額の黒字を出して、
「チケットの値段を下げて儲けを客に還元する。」
と宣言した程の違いがある。
参照 : Spiegel
かってエア ベルリンと共同便を運航していたニキラウダ氏は、
「エアベルリンはコストが上昇する一方で、改善する見込みがない。」
と同社の運命を見切っている。実際、大株主の""Etihad"が資金援助をしていなければ、エアベルリンは2年前に倒産していた。
Etihad の野望
"Ethiad"は欧州市場への進出の一歩として、赤字に悩むエアベルリンの株式の30%、同じく救いようがない万年赤字のアリタリアの49%を取得した。
参照 : die presse.com
「金が余っている国は、金をどぶに捨てるような投資をするものだ。」
と思われたが、よりによってあのアリタリアが2015年には赤字を半分にまで削減することに成功した。
2016年はさらに赤字を減らして、2017年は黒字を目指している。これが成功すれば、まさに奇跡のような会社の再生になる。(*1)
ところが何故かイタリア人に出来るのに、ドイツ人のエアベルリンには同じことができなかった。
会社の創設者はさじを投げて、かってドイツ鉄道をコスト削減でボロボロにしたメドン氏を社長に迎えたが、エアベルリンを救うことはできなかった。
数年でメドン氏は退陣、新しく社長に就任した"Pichler"氏は、会社を刷新するプランを自ら、「最後のチャンス」と呼んだ。
エア ベルリン 最後のチャンス
その更正プランを簡単に説明すると、まず飛行機の種類と数を縮小する。
さまざまな機種があると、整備費用に金がかかる。そこで会社の航空機はわずかな例外を除き、エアバスに統一した。そして儲からない路線を廃止、南(アジア)行きのフライトはすべてドウバイ経由にした。
便名はエア ベルリンだが、ここから先は大株主の""Etihad"の機体で飛ぶので、エア ベルリンは長距離路線用の飛行機を節約できる上、""Etihad"からおいしい共同運航の謝礼が入ってくる。
これが大事な収入源のエアベルリンは、ドイツの国内便も"Ethiad"とコードシェアをして、収入を増やそうとした。
ところが運輸省は国内線はおろか、ドウバイまでの海外路線のコードシェアを「将来は禁止する。」と決断、エアベルリンは倒産寸前の危機に陥った。
コードシェアによる収入源、金のなるアジア路線がなくなれば、エアベルリンには致命的なダメージになる。エア ベルリンは運輸省の決定を不服として裁判所に訴え、そして部分的に勝訴した。
高等裁判所は、国内線のコードシシェアは認めなかったが、国際線にはコードシェアを認めた。お陰でこれで首の皮が一枚つながった。
巷では"Etihad"がアリタリアとエア ベルリンを合併させるという推測も持ち上がったが、大株主はこの推測を否定した。
しかし"Ethiad"の我慢も、そろろ限界に近づいている。かって20ユーロもした株価が、今やわずか70セント。"Etihad"がエア ベルリンに投資した金はもうほとんど残っていない。
こんなに株価が安いから、株式の51%取得してエアベルリンを買収、大掃除をしてはどうか?とも思うが、これをやるとドイツ国内線の離着陸の権利を失う。
ドイツは第二次大戦で敗戦して連合国に占領されたので、かっての連合国だけはドイツで国内線を運行する権利がある.。
しかし他の国、例えば日本の航空会社にはドイツ国内線を飛ばす権利はない。"Ethiad"が過半数を取得すると、もう国内の航空会社ではなくなり、ドイツ国内の利発着便の権利を失いかねないからだ。
今後、"Ethiad"からの大きな資金援助はない。エアベルリンは、自身で赤字の沼から抜け出さなくてはならない。
航空機売却
考えぬいた結果、エアベルリンは同社がまだ保有していた飛行機をすべて売却した。
運行に必要な航空機はリースして使用する形だ。ルフトハンザでも飛行機をリースしているが、一機も航空機を所有していない航空会社は初耳だ。
このニュースが伝わると、エアベルリンの株式はまたしても暴落、70セントから60セントに値を下げた。英国の投資銀行HSBCは株価予想を10セントから1セントに下方修正した。この自転車操業はいつまでもつだろう。
注釈
*1
アリタリアの奇跡は長続きしなかった。すぐに赤字に戻り、Ethiad も匙を投げた。
結果、アリタリアは国有化され間抜けなアリタリア冒険に乗り出した社長はクビになった。
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