
墜落の衝撃でペシャンコになった小型飛行機
2016年7月14日、スロヴェニアで小型飛行機が墜落した。
かなり激しい墜落だったようで飛行機は踏み潰されたようにぺしゃんこになっていた。この事故でパイロットと乗客の4名が死亡した。
事故現場を捜査したスロヴェニアの警察は、犠牲者の所有物と推測される鞄を確保した。事故現場を取り締まる警察がこの鞄を開けてみると、そこには彼の一生で稼ぐ金の数十倍の現金、それともスイスフランが詰まっていた。
スタートアップ業界のプリンス
飛行機に乗っていたと推測されたのはドイツのスタートアップ業界のプリンス、Thomas Wagner氏だった。
参照 . Zeit Online
氏は早くからインターネットでさまざまなサービスを開始した。とりわけ航空チケットの検索販売サイト"Fluege.de"、ドイツ人の大好きな休暇の検索サイト"Ab in den Urlaub.de"は大成功で、氏は20代という若さでミリオネアになった。
参照 : Flüge.de
ところがこの成功は、長続きするものではなかった。
いきなりお金持ちになった人物が頻繫にやるミス、
「成功をみせびらかせずにはおられない。」
、をやってしまった。豪華な車、美人、豪邸というお決まりのパターンに加えて、オンライン会社なので必要もないのにライプチッヒの一等地の建物を、オフィスとしてまるごと借り切った。まるで王様のように振舞いだった。
最後には航空チケットや休暇を販売、航空会社や大手の旅行主催者から手数料を取るだけでは満足せず、独自の旅行代理店も開店、ますます会社のランニングコストを膨らませていった。
真似をする者が続出
氏が成功したオンライン上での航空チケット、休暇旅行の販売はそれなりのプログラムが必要だ。
だがプログラマーに払える金を持っていれば、誰もできる。パテントで守れる商売ではないのだ。
氏の成功を見て大手の旅行主催者は、独自のホームページで休暇を販売した。同様に航空会社は、独自のホームページでチケットの販売を始めた。
自社のホームページで売ればコミッションを節約できる上、この会社を子会社として登記すれば、節税にもなるからだ。
こうして航空チケットや休暇を販売するサイトが次から次へと登場、とりわけ米国から大手のオンライン旅行代理店がドイツで販売を始めると、同氏が経営する会社"Unister"の業績は悪化した。
商品券 無料進呈!
売り上げを回復させるため、同社のホームページで航空チケットを買うと、こっそりと旅行保険を一緒に買わさせるようにした。
これは最後のページで支払いをするまでわかなないので、多くの旅行者が騙された。さらには同社のサイトで休暇を申し込むと、
「100ユーロの商品券がもらえる。」
という得点をつけて客をおびき寄せた。
しかしこれはギャグで、実際に利用することはできなかった。このような汚い方法を取ったことで、消費者団体から非難されて、テレビで槍玉にあがった。
すると同社の売り上げは、上昇するどころか下落した。業績が悪化すると、同社の高いランニングコストは致命的で、借金は4000万ユーロ近にまで膨らんだ。
一か八かの賭け
会社の倒産を回避するため、ワーグナー氏は一か八かの賭けに出た。
自称イスラエルからの投資家とイタリアのベニスで会うことにした。このイスラエル人は大型投資の担保として、氏、および会社の所有資産を要求した。
ワーグナー氏はこれと引き換えに、鞄に詰まった現金を受け取った。
氏は何故、こんな危険な賭けに出たのだろう。
それは同社の業績を知っている銀行からは、もう融資してもらえないからだ。そこで怪しげな投資家に賭けるしかなかった。
しかし氏の命運はすでに尽きていた。自称イスラエル人が手渡した現金の大半は、偽札だったのだ!これに気が付いた氏はイタリアで警察に詐欺の届けを出したが、イタリアの警察は当面、何もできなかった。
失意のワーグナー氏は証拠である偽札を積んで飛行機に乗ったが、この飛行機が墜落した。運に見放されると、何をしてもうまくいかない。
墜落現場で大量の現金(偽札)を発見した警察は、身につけていた書類から身元を確認すると、管轄の上司にこれを連絡した。
こうしてスロベニアの警察からドイツ領事館に、ドイツ国籍と思われる乗客3名が墜落死したと伝えられた。
この事故で氏と一緒に会社を経営するパートナーも死去、"Unister"は経営陣を1日で失った。
Unister 倒産
飛行機事故から数日後、"Unister"は会社更生法の適用を申請した。
"Fluege.de"、それに"Ab in den Urlaub.de"はまだ機能しており、相変わらず商品券を進呈!と宣伝しているが、要注意。会社が支払い不能になった今、商品券が現金化、あるいはこれを次の休暇で使用できる可能性はない。
消費者団体によると、これらのサイトは航空チケットや休暇を仲介するだけで、契約は航空会社、旅行主催者と行われているので、"Unister"が客から受け取った金をちゃんと航空会社、旅行主催者に払っていれば、何も問題がないという。
ただし倒産した会社が、今後も金を航空会社や旅行主催者に支払う可能性は低い。
又、同社が経営する旅行代理店、Unister Travel Betriebsgesellschaft GmbHも会社更生法の適用を申請した。この会社は旅行主催者だったので、ここが倒産するとすでに支払った休暇はおじゃんになる。
もし同社が倒産に備えて保険に入っていれば、保険会社が同社に払い込んだお金を保証してくれる。
陰謀説
事件が事件だけに、「陰謀説」が誕生するには理想的な環境だ。
イスラエルの投資家は実はマフィアで、証拠隠滅を企図して飛行機を墜落させた。墜落死したのはワーグナー氏ではなく、赤の他人、氏の身代わりに氏の書類を持たされて飛行機に乗せらされた。
偽札に交換したのはワーグナー氏自身で、氏は本物の現金と一緒に逃亡、カリビックでのうのうとミリオネアの生活をしている、などなどさまざまな噂が出回っている。
真実が何処にあるせよ、ウニスター社の倒産は明らかな事実なので、
「あ、ここ安い!」
と休暇や航空チケットを購入するのは危ない綱渡り。同社の借金額を考えれば次回の休暇費用として払うお金が、"Insolvenzmasse"(債務者へ返却される資金のプール)に消えてしまう可能性が高い。ご注意あれ。
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